宝暦十年九月二十三日に生まれ、嘉永二年四月十八日に没した北斎。生没年月日ともに判っている稀な存在です。辰年(庚辰)生まれの宿命の下、江戸後期に数え90年の生涯を自らのスタンスで、絵画世界に執念をもって没頭した絵師−それが北斎です。最晩年の肉筆画「富士越龍」図に見るごとく、北斎はまさに龍の化身として、この世に舞い降りたのです。北斎の画業は多様多岐にわたっています。錦絵では役者絵・美人画・洋風画から、北斎を代表する晩年期の連作の風景画、版本では黄表紙や狂歌絵本、読本、絵手本や絵本。そして肉筆画の分野では、習作から熟成の年代にかけての美人画や風俗画、晩年期の故事古典などに取材した作品群。いずれの分野を取り上げても、他に抜きんでて質の高さを誇る、それが北斎の画業です。天保改革の余波のさなか、80歳半ばの北斎は小布施に舞い来たりました。そして祭屋台二基と古刹の天井画の制作に、最晩年の気力を注入しました。当世風俗を描く浮世絵という世界を越えて、陰陽五行の世界観を大画に表出したとも言えましょう。この年代、遠国に赴く弟子に同地ならではの魚介の写生を依頼するなど、ますます盛んな絵画への意欲を思わせます。

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